伊部と片上を歩く、備前さんぽというイベントに参加してきました。
倉敷とことこで備前焼のお店の記事を書いて以来、その抽象的で美しい造形に惚れて、備前焼の窯元が集まるまち、伊部(いんべ)をいつか訪れてみたいと思っていました。
念願叶って、備前焼の窯場や工房を見学したりギャラリーを覗いたり。記事を書くために調べた備前焼の作業工程を、実際に目で見て確かめることができ、備前焼への興味がますます強くなりました。
さらには、片上(かたかみ)を拠点に活動していた芸術家のミュージアムを訪れ、現代アートの世界にも触れることに。
朝から丸一日かけて、まち歩きを満喫。紹介したいこと、伝えたいことがありすぎてとっ散らかってしまいそうですが……。私からの視点でピックアップした、第2回備前さんぽ(2023年3月20日開催)の様子をお楽しみいただけたらと思います!
備前さんぽとは
まずは、備前さんぽって何?というところから。
岡山県備前市でクリエイティブ×地域の力に挑戦する人たちのコミュニティを立ち上げることに決めました!
— BIZEN CREATIVE FARM|備前 (@bizen_farm) February 21, 2023
活動テーマは「知る・つくる・伝える・繋がる」。1年目は「知る×繋がる」をテーマに活動。まずは「備前さんぽ」というまちあるき企画を立ち上げました🙌 pic.twitter.com/15hg7bdtSk
備前さんぽは、BIZEN CREATIVE FARMが企画したまちあるきイベント。BIZEN CREATIVE FARMは備前市出身の2人のデザイナー、みなみさんとyoshikataさんが立ち上げた「岡山県備前市でクリエイティブ×地域の力に挑戦する人たちのコミュニティ」です。
あまりクリエイティブなことをしているとは思えない私ですが、ブログやSNSを使って、地域を知り、発信することを長らく続けてきています。
瀬戸内かわいい部という素敵な活動にもかかわっていたみなみさんは憧れの存在。気軽に話しかけていいものかと距離感を探りつつも、このツイートを見てやっぱり参加してみよう!と。
面白そうです!私も運転苦手なので公共交通機関でっていうのも惹かれます🚃🤭 https://t.co/KIkAdgQcDM
— meg (@yukimegri) February 5, 2023
岡山市中心部や倉敷ならまだしも、備前市だと車で行かないと参加は難しいかと思っていたら、みなみさん自身が運転できないため「基本は歩きor公共交通機関移動です!」とのことで。
それなら、運転が苦手な私も堂々と電車で行ける!!と参加してみたくなったのでした。
初めましての方ばかりでちょっぴり緊張しながら迎えた当日。自分と同じように岡山に移住してきた方や、中には移住サポートにかかわる仕事をされている方も。
岡山が好きで、岡山をもっと知りたいという気持ちはみんなに共通すること。自然と交流が始まり、言葉を交わすことができてほっとしました。
また、これから個人事業のウェイトを増やしていきたい私にとって、既にフリーランスで活躍している方々と知り合うことができたのは貴重な機会でもありました。
備前焼のまち伊部を歩く
JR赤穂線の伊部駅から備前さんぽスタートです!伊部駅前の交差点を北へ進むと早速備前焼の窯元が見えてきますよ。お散歩日和の見事な青空。
BIZEN gallery Kaiで新しい時代の備前焼に触れる
伊部駅から歩いて数分のBIZEN gallery Kaiに到着。エントランスには備前焼のタイルが。
BIZEN gallery Kaiでは、備前焼作家の奥様でありKaiの接客販売も担当しているフジタメグミさんが案内してくださいました。
新進気鋭の備前焼作家の作品を取り扱うギャラリー。今までの備前焼のイメージとは異なる個性的な作品も見られて面白いです。
白備前という白い備前焼は、絹雲母を含む土から作られるのだそう。
備前焼ゆかりの天津神社
旧山陽道沿いを東へ。天津神社を目指します。
天津神社は個人的にとても好きだなあと思った場所。狛犬だけでなく、境内の至るところに備前焼が。
塀に埋め込まれているのは、備前焼の作家さんの陶印。
外で雨ざらしになっても大丈夫な備前焼。雨で濡れたあとが実はおすすめなのだとか。光沢が出て美しさが引き立つそうです。天津神社の宮司さんがそう話してくださいました。そして、どうぞぜひ近くで見てみてくださいと。
ここでは、ゆっくり見上げたり見下ろしたりしてたくさんの作品を見つけてみてほしいです。
伊部北大釜跡と天保窯
天津神社の境内近くにある伊部北大釜跡。江戸後期までは南、北、西の共同大釜で備前焼を大量生産していたそうです。街を見下ろすとたくさんの煙突が見えるのが伊部らしい景色。
備前市指定文化財の天保窯。備前焼の古窯で元の姿をとどめているのはここだけ。
そばにある河津桜がきれいに咲いてました。
一陽窯の窯場と工房を見学
備前焼窯元である一陽窯で、窯場と工房を見学。ここは一陽窯3代目の奥様である敦子さんが案内してくださいました。
窯焚きに使うアカマツの薪が積み上がっています。アカマツは油分が多く、よく焼けるのだそうです。
原土は灰色。備前焼の茶色い模様は、炎によって土に含まれる鉄分が酸化することで生まれます。
一陽窯のご主人が作業する様子を見せていただいたり、焼く前の作品を目にしたり、窯の中に入らせてもらったり。貴重な作品作りの場を肌で感じられて感激。
一陽窯さんのギャラリーで私が気になったのは酒器。やはりお酒にかかわるものに目がいってしまう( *´艸`)
備前市のクラフトビールkotiがおいしく飲めるよう開発されたコチカップ。
マグカップやワイングラスも。ワインを備前焼の器で飲むとまろやかになるらしいです。
伊部南大釜跡
続いて、伊部南大釜跡へ。伊部駅から歩けるぐらいの距離です。車だと手前のトンネルの道が狭いので私は運転したくない(;^ω^)
足元には備前焼の陶片が無造作に転がっています。
片上の老舗旅館「ゑびすや荒木旅館」
ここからは片上(かたかみ)へ移動。伊部駅から東へ一駅、西片上駅周辺のエリアです。今回は車で移動しました。JR赤穂線は本数が少なく、一駅といえども電車利用はちょっと不便で時間が制限されてしまいます。(赤穂線の本数、もう少し増やして……!)
ちなみに、伊部から西片上は直線距離で2.2km程。徒歩30分ぐらいのようです。我が家の2人なら天気がよければ歩くかも。
備前焼の器でいただくランチ
この日のランチは、安政三年(1856年)創業の老舗料理旅館、ゑびすや荒木旅館でミニ会席です。
備前焼の器で季節の会席料理を。たまにはこんな贅沢な時間を過ごすのもいいものですね。
箸置きも備前焼のもの。
備前焼の酒器でいただくビールは口当たり柔らかで飲みやすい。ますますほしくなる酒器……。
多くの著名人に愛された歴史ある旅館
西片上駅からほど近いゑびすや荒木旅館。北大路魯山人など数々の著名人が訪れた歴史ある料理旅館です。
女将さんが気さくでほんとに素敵で、面白いエピソードをたくさん紹介してくださいました。Instagramで料理や館内の様子を発信されています。
館内のお部屋も見学させてもらいました。
明治天皇がご昼食を召し上がった南天の間。
今では珍しいレトロな電話室。
大広間では美空ひばりや島倉千代子のディナーショーが開かれたことも。
備前発ぶっとんだアートプロジェクト
ランチのあとは、WHITE NOISE 林三從ミュージアムへ。備前市を拠点に活動していた芸術家、林三從(はやしみより)さんの作品や資料を見せてもらいました。(観覧には事前予約が必要です。)
彼女のことを知っていますでしょうか?
一言では到底語れないのですが、三從さんが多くの住民を巻き込んで行っていた備前アートイヴェントのキャッチコピー、「どイナカで、どアートする」という言葉が印象的でした。
海の上でアーティストにピアノを弾かせたり、空から種を撒いて航空法違反で始末書を書かされ、それさえも作品にしたり。ぶっとんだ瀬戸芸みたいなものを、今から30〜40年前に備前でやっていたというのが驚き。
当時のことを知る方がいらっしゃったら、コメントいただけると嬉しいです。
みなみさんの熱いレポート。
人を巻き込む力のもととなるものの中に「食」(同じ窯の飯を食うこと)が入っていることがなんだか意外で面白い。
備前さんぽに参加してみて
いろんなものを見て、たくさんのことを感じた備前さんぽ。この体験をどう文章にすればいいのか、考えが一向にまとまりませんでした。
そこで、みなみさんとyoshikataさんがスペースで備前さんぽのふりかえりをされていたのを聴いてみることに。
備前出身のデザイナー2人 @minami9ram @SayaYoshikata が気になる地域の取り組みのこと、備前のことなどを、その日のお題でフリーダムに話すスペース #あしたのローカル 。この日は備前さんぽのふりかえり回となりました。 https://t.co/kFbfaG0du7
— BIZEN CREATIVE FARM|備前 (@bizen_farm) April 10, 2023
林三從さんのことを紹介するところで、わからないものをそのまま受け止めてもらうという話をされていたんですね。備前焼の記事を書いたときに、私も全く同じことを考えていたので、三從さんが当時難しいことをそのまま表現し、それを続けていたことの凄さを語っていた部分に、大きく頷きました。
わかりやすさは正義なのかということを、この記事の中で触れています。
冒頭で私自身はあまりクリエイティブなことをしていないと書きましたが、スペースを聴き、過去に書いた文章をふりかえってみると、翻訳という作業、つまりは中国語や英語を介して何かを伝えようとすることも、実はクリエイティブなことなのかもなあと。
だとすれば自分もやはり、クリエイティブ×地域の力を試していこうとしているのかもしれません。そして何より、ここで備前焼について書いた経験が繋がってくるとは。不思議なものです。
スペースの中で紹介されていた、アートとは社会に役立つことではなく、人の心を揺らして社会を変えていくものだという言葉も印象的でした。岡本太郎の『自分の中に毒を持て』というエッセイの中に、それに通ずることが書かれています。よかったら読んでみてください。
どんな場所でも、実際に歩いてみると何かしら面白いなって思えるポイントがあり、何度か通ってみるとまた違う発見があり。旅のよさはそういうところだと思っています。
今回紹介したのは、どこも駅から歩いて行けるところばかり。このレポートを読んで興味を持たれたら、伊部や片上をぜひふらっと散策してみてくださいね。
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