高松市美術館で行われていた野口哲哉展を見に行ってきました。
展示のタイトルは「this is not a samurai」。
チケットやポスターに写っているのは一見サムライなのに、これはサムライではない、とはどういう意味なんでしょう。
不思議なタイトルと、展示室に並ぶ多種多様な姿をした造形作品。絵画を見るのとはまた違う楽しさがありました。
- 野口哲哉展「this is not a samurai」の概要
- 岡山から高速を使って高松市美術館まで
- サムライのイメージががらっと変わるユニークな鎧や兜をまとった人々
- 敢えて作品の意図を提示する野口氏
野口哲哉展「this is not a samurai」の概要
香川県高松市出身の美術作家
まずは作者の野口哲哉氏について。
1980年、香川県高松市生まれ。2003年、広島市立大学芸術学部油絵科卒、05年同大大学院修了。「鎧と人間」をモチーフに、 樹脂やアクリル絵具を使って彫刻や絵画作品などを制作する。
私は氏のことを知らなかったのですが、相方が彼の作品が好きで、今回の展示「this is not a samurai」を見に行くことになりました。
80年生まれなら自分とほぼ同世代。香川県にそんな作家さんがいたのだなあと、近県の岡山に住む身としては親近感が湧いてきます。
香川県をはじめ全国4か所で開催
野口哲哉展「this is not a samurai」は全国4か所で展示が行われます。
氏の生まれ故郷である香川会場を皮切りに、山口、群馬、愛知と続きます。現在は山口会場、山口県立美術館で6月13日まで開かれていますよ。
大都市からは少し外れた開催地ばかりですが、ちょっとした小旅行気分で訪れられるのではないでしょうか。コロナの状況にもよりますが、どの会場も約2か月の期間があるので、うまくタイミングが合えば。
岡山から高速を使って高松市美術館まで
私たちが野口哲哉展を見に行ったのは、2021年3月初めの週末。昨年の春からずっと県外への移動は自粛していたため、約1年ぶりの県外日帰り旅行になりました。
岡山から車で瀬戸大橋を渡って高松へ。昨年夏に免許を取って以来、瀬戸大橋を自分で運転するのが目標でした。緊張したけど、達成できて嬉しい!
高速デビュー🙌 pic.twitter.com/kI01LHT9PE
— meg (@yukimegri) March 7, 2021
福田町のあなぶきパークに車をとめて、高松市美術館までは徒歩で。ことでんの線路より東側はわりと駐車場代が安くなるようで、8時から19時までは上限400円でした。リーズナブルでありがたい。
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高松市美術館の入口で、早速this is not a samuraiのポスターに迎えられます。どんな作品が待っているのか、わくわくしながら中へ。
サムライのイメージががらっと変わるユニークな鎧や兜をまとった人々
作品の第一印象は、なんだかかわいい。
展示の構成は、第1章から5章までの5パートに分かれていて、最後の第5章のみ、写真撮影が可能です。
ちょっと小さな鎧兜や、すごく小さな侍たちが来館者を出迎えます。
でも、その侍は「侍じゃない」のです。それは一体どういう意味なのでしょう?
「なさそうで、ある物」と「ありそうで、ないもの」の2つが混在する、知的でユニークな作品世界の始まりです。
「なさそうで、ある物」と「ありそうで、ないもの」
小説やドラマの面白さもそこにあると思っているのですが、現実と創造のどちらとも言い難い境い目のような部分に、ひょっとしたらこういうものもあるんじゃないかと新たな着眼点を見出す余地があるのではないかと。
ユニクロやH&Mに行ってきました、みたいなノリで「THE MET」の紙バッグを手にしたサムライ。ふっと笑ってしまいます。
トラのしっぽのように見える刀。
海洋生物を模した兜。
よく見るとスニーカーを履いていたり、ポケットが付いていたり。
サムライではないというタイトルに込められているのは、サムライというフィルターを通して見るのではなく、同じ「人間」として見てほしいという意図。
作者である野口哲哉にとって、「鎧と人間」の2つがあれば、侍という要素は必要ありません。
鎧兜を着ていても、「侍」というフィルターを通さず、人間をクリアに見つめる作風は、異なる人種や文化に偏見を持ちがちな私たちに、時に優しく、時に皮肉を込めた警鐘を鳴らします。
動物も鎧を着ていたり、現代風のテイストが混ざっていたり。過去と現代の奇妙な組み合わせや、ときに哀愁漂う姿や表情に、太古の武士たちも同じような感覚で生きてたところもあるのかなと、思わず想像してしまいます。
ポスターにもなっていた、ハートを描くサムライの後ろ姿。
サムライとSOME LIEを掛けた言葉遊びのような作品も。
私のお気に入りはイチゴの兜。
一つ一つの作品のまわりをぐるっとまわって、いろんな角度から鑑賞。本当に細かく緻密に作られています。野口氏は解剖学も学んでいたのだそう。
人間の表情や所作が見れば見るほどリアルで、味わい深くなってきます。
敢えて作品の意図を提示する野口氏
賛否両論ありそうだなと思ったのは、展示の紹介で作家の意図がわりと詳しく書かれていること。
できるだけフラットな気持ちで見たいので、こういう意図で作りましたっていう前知識はない方がいいと思ってたんですけど、今回はそれもありかな、と思わせてくれる展示内容でした。
作者の解説によって、なんでこんな鎧を着ているんだろう、なんでこんな表情をしているんだろう、っていう疑問の答えを、鑑賞する人それぞれが自由に見つけられる。説明は考えるきっかけにすぎず、何を想うかは見る人に委ねられているんですよね。
アートの役割は、想像力を豊かにすること。先入観を壊して、新たな発想を生む体験ができるのが、芸術鑑賞の良さだと思います。
そろそろ美術館に行きたいなあと思っていたタイミングで相方がちょうど提案してくれて、久しぶりの遠出もでき、いい気分転換になりました。
何より鑑賞を楽しみにしていた彼が、帰りの車でもずっとにこにこしてて、本当に来てよかったなあとしみじみ。